
グローバル災害DXのトレンドレポート
1. エグゼクティブサマリー
近年、世界中で自然災害の頻度と深刻度が増加しており、その影響は地域社会と経済に甚大な被害をもたらしています 。この状況を受け、災害対策のあらゆる段階、すなわち事前準備、発生時の対応、そして復旧活動において、デジタルトランスフォーメーション(DX)の役割がますます重要になっています 1。DXは、従来の災害対策手法を大きく変革し、より効率的で効果的なアプローチを可能にするものです。
世界の災害DX市場は、その定義や範囲によって市場規模の推定値に幅があるものの、全体として大きな成長の可能性を秘めていることが複数の調査報告から示唆されています 13。気候変動による災害リスクの増大、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータといった技術革新、そして各国政府による積極的な取り組みが、この市場の成長を牽引する主な要因となっています。
本レポートでは、世界の災害DX市場の現状、成長性、主要なプレイヤー、成長要因、そして今後のトレンドについて詳細に分析します。特に、AI、IoT、ビッグデータなどの先端技術の活用、新たな技術やサービスの登場、注目される国や地域、独自の取り組み事例などを取り上げ、災害DXの最新動向と将来展望を明らかにします。
2. はじめに
災害DXとは、デジタル技術を災害の事前準備、発生時の対応、そしてその後の復旧プロセスに統合する取り組みを指します。この概念は、単に既存の災害対策にITツールを導入するだけでなく、データ分析に基づいた予測、迅速な情報伝達、効率的な資源配分、そしてより強靭な社会インフラの構築を目指す、変革的なアプローチです。
近年、地球規模で自然災害の頻度と深刻度が増しており、その影響は広範囲に及び、人命の損失だけでなく、経済活動にも大きな損害を与えています。国際的な災害データベースであるEM-DAT によると、世界中で発生する災害の数は増加傾向にあり、その被害も甚大化しています。このような状況下において、従来の災害対策だけでは限界があり、より効果的で迅速な対応が求められています。
災害DXは、このような課題を解決するための重要な手段として注目されています 1。デジタル技術を活用することで、災害リスクをより正確に予測し、早期警戒システムを高度化することができます。また、災害発生時には、リアルタイムでの状況把握、被災者への迅速な情報伝達、そして効率的な救助・支援活動が可能になります。さらに、復旧・復興段階においても、データ分析やデジタルツインなどの技術を活用することで、迅速かつ持続可能な復興を支援することができます。災害DXは、単に災害対応の効率を高めるだけでなく、社会全体の災害に対するレジリエンス(強靭性)を高める上で不可欠な要素となっています 。
3. グローバル災害DX市場の規模と成長
3.1 現在の市場規模と過去数年間の成長率
世界の災害DX市場、またはそれに関連する防災テック市場の規模に関する調査報告は複数存在し、その定義や調査対象範囲によって数値に差異が見られます。しかし、全体として市場が成長傾向にあることは共通して示されています。
日本の防災情報システム・サービス市場に焦点を当てたシード・プランニングの調査によると、2021年の市場規模は1,050億円であり、2027年には1,533億円にまで成長すると予測されています。別の調査では、防災情報システム・サービス市場は2021年度に1,039億円、2026年には約1,352億円に達すると予測されています。さらに、2023年1月に同社が発表したプレスリリースでは、日本国内の防災情報システム・サービスの官公庁需要と民間需要を合わせた市場規模は2027年度までに約1,533億円に達すると予測されています。2024年度には、この市場は2,150億円に達し、2030年度には約2,360億円になるとの予測もあります。
グローバル市場に目を向けると、オリックス・レンテックは、調査会社の予測として、災害対策システムの世界市場規模が2030年に2,981億ドルと、2020年の2倍に達すると報告しています。MarketsandMarketsの調査では、自然災害管理市場は2024年の639.5億ドルから2029年には1,140.4億ドルに成長し、予測期間中の年平均成長率(CAGR)は12.3%と推定されています。Zion Market Researchの報告によると、世界の災害対策システム市場は2023年に約1,761億ドルと評価され、2032年には約3,639.3億ドルに達すると予測されており、2024年から2032年の間のCAGRは約8.40%です。Grand View Researchは、世界の災害復旧ソリューション市場規模を2023年に95.9億ドルと評価し、2024年から2030年の間に36.3%のCAGRで成長すると予測しています。Business Research Insightsの調査では、世界の災害管理市場規模は2024年に約954.9億ドルと評価され、2033年には1,626.9億ドルに達すると予測されており、2024年から2033年の間のCAGRは6.1%です。
これらの報告から、災害DXに関連する市場は、その定義や範囲によって数値は異なるものの、過去数年間において着実に成長しており、今後も高い成長率を維持することが予測されます。自然災害の増加とデジタル技術の進化が、この成長を強く後押ししていると考えられます。
3.2 今後の市場予測
上記で言及したように、複数の調査機関が世界の災害DX市場、または関連市場の将来的な成長を予測しています。これらの予測は、自然災害の頻度と深刻度の増加、技術革新の進展、そして政府や企業の防災意識の高まりを背景としています。
Grand View Researchの予測では、世界の災害復旧ソリューション市場は2030年に811.5億ドルに達すると見込まれています。MarketsandMarketsは、自然災害管理市場が2029年には1,140.4億ドルに達すると予測しており、Zion Market Researchは、災害対策システム市場が2032年には3,639.3億ドルに達すると予測しています。Business Research Insightsの予測では、世界の災害管理市場は2033年には1,626.9億ドルに達する見込みです。
これらの予測に共通するのは、今後数年間で災害DX市場が大幅な成長を遂げるという見解です。特に、アジア太平洋地域は、自然災害のリスクが高いことから、最も高い成長率を示すと予測されています。日本においても、防災情報システム・サービス市場は堅調な成長が期待されており、2027年には1,500億円を超える市場規模になると予測されています。
これらの予測を踏まえると、グローバル災害DX市場は、今後10年以内に数千億ドル規模の市場へと成長する可能性があり、関連技術やサービスを提供する企業にとって大きなビジネスチャンスが広がっていると言えるでしょう。
4. 世界の災害DX市場の成長を牽引している主な要因
4.1 気候変動と災害の頻度・深刻度の増加の影響
気候変動は、世界各地で異常気象を引き起こし、自然災害の頻度と深刻度を増大させています 13。台風やハリケーンなどの風水害、地震、津波、山火事など、様々な種類の災害がより頻繁に、そしてより激しい規模で発生するようになっています。このような状況は、人々の生命や財産を脅かすだけでなく、社会インフラや経済活動にも深刻な影響を与えます。
災害DXは、このような気候変動による災害リスクの増大に対応するための重要な手段となります。例えば、AIを活用した気象予測技術は、線状降水帯の形成を早期に把握し、自治体による適切なタイミングでの避難指示を可能にする可能性があります。また、IoTセンサーを用いた河川の水位や降雨量のリアルタイムモニタリングは、洪水のリスクを早期に検知し、被害を最小限に抑えるための迅速な対応を支援します。このように、災害DXは、災害の予測精度を高め、早期警戒を可能にすることで、被害の軽減に貢献します。
4.2 技術革新(AI、IoT、ビッグデータなど)の役割
災害DX市場の成長を牽引する主要な要因の一つが、AI、IoT、ビッグデータなどの技術革新です。
AIは、過去の災害データや気象データなどを分析することで、地震や洪水などの発生可能性を予測する地震予測システムなどに活用されています。また、ドローンや衛星画像などのデータをAIが解析することで、被災地の状況を迅速に把握し、救助活動の効率化や支援物資の適切な配布を可能にします。さらに、SNSの投稿や緊急通報をAIが解析し、リアルタイムで避難勧告を発信するシステムも開発されています。
IoT技術は、河川の水位や降雨量、地震の振動などをリアルタイムで検知するセンサーとして活用され、関係機関や住民に即座に通知することで、避難指示の迅速な発令を可能にします。また、避難所の混雑状況をリアルタイムで把握できるシステムもIoTを活用した例であり、被災者が空いている避難所を迅速に見つけて避難できるよう支援します。
ビッグデータ分析は、気象データ、河川水位データ、地形データなどを統合して洪水の発生を高精度に予測したり、過去の災害データから被害の想定を行ったりするために活用されます。人流データの分析は、災害時の避難経路の最適化に役立てられています。
これらの技術革新は、災害の予測精度を向上させ、発生時の状況把握を迅速化し、避難や救助活動を効率化するなど、災害対策のあらゆる段階において重要な役割を果たしています。
4.3 政府の取り組み
世界各国で、政府が災害DXの推進に向けた取り組みを強化しています。例えば、日本では、内閣府が「防災×テクノロジー タスクフォース」を設置し、防災対策におけるICTや新たなテクノロジーの活用を推進しています。また、デジタル庁は、防災を重点的な取り組みの一つとして位置づけ、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において防災DXを推進しており、防災分野に関するデータ連携プラットフォームの整備などを目標としています。
2022年12月には、デジタル庁が中心となり「防災DX官民共創協議会」が発足し、官民連携で防災DXの基盤形成や市場形成が進められています 7。この協議会では、「防災DXサービスマップ」の整備など、自治体が活用できる防災DXサービスの情報提供も行われています。
米国地質調査所(USGS)や日本の気象庁(JMA)のような大規模機関は、地震に対する強靭性を高めるために、高度な早期警戒システムを継続的に強化しています。
アジア太平洋地域では、各国政府が自然災害問題の軽減に向けて高度な自然災害ソリューションに投資しており、インド、中国、オーストラリア、ニュージーランドなどが高い成長率を示すと予測されています。
これらの政府による取り組みは、災害DXの技術開発や導入を促進し、市場成長の重要な推進力となっています。
5. 世界の災害DX市場における主要な企業や地域
5.1 主要な企業
世界の災害DX市場には、多岐にわたる企業が参入しており、それぞれ独自のソリューションや技術を提供しています。これらの企業は、AIを活用した災害予測・分析、IoTセンサーによるリアルタイム監視、ビッグデータ分析によるリスク評価、クラウドベースのプラットフォームによる情報共有、ドローンや衛星技術を活用した被災状況把握など、様々な分野で革新的な技術やサービスを展開しています。
主要な企業としては、NEC 15、Hexagon 15、Nokia 15、Xylem 15、ESRI 15、Everbridge、Blackberry などのグローバル企業が挙げられます。これらの企業は、地震警報・監視システム、気象監視アプリケーション、緊急事態管理システムなど、広範なソリューションを提供しています。
また、IBM 33、Microsoft 26、NTTデータ 30 などの大手IT企業も、クラウドベースの災害復旧ソリューションやデータ分析プラットフォームなどを提供し、市場の成長に貢献しています。
近年注目を集めているのは、Spectee のような防災テックスタートアップです。Specteeは、AIを活用してSNSなどのリアルタイム情報を解析し、災害状況を迅速に把握・共有するサービスを提供しており、多くの企業や自治体で採用されています。
さらに、パナソニック は、太陽光発電や蓄電システムを組み合わせた独立型電源システムを提供し、災害時の電力供給を支援しています。ウェザーニューズは、AIを活用した防災チャットボット「SOCDA」を開発し、被災者への情報提供や避難支援を行っています。
5.2 提供するソリューションや技術の事例
主要企業が提供するソリューションや技術の事例は多岐にわたります。
AIを活用したソリューションとしては、富士通研究所の津波被害軽減予測プロジェクトや、NTTの通信ケーブル被災予測システムなどが挙げられます。これらのシステムは、過去のデータやリアルタイムの情報を分析し、災害リスクを予測することで、事前の対策や迅速な対応を支援します。
IoTを活用したソリューションとしては、河川の水位や雨量をリアルタイムで監視するセンサーネットワークや、避難所の混雑状況を可視化するシステムなどがあります。これらの技術は、災害状況の早期把握や適切な避難誘導に役立ちます。
ビッグデータ分析を活用したソリューションとしては、過去の災害データや地理空間情報などを分析し、災害リスクの高いエリアを特定したり、災害発生時の被害範囲を予測したりするシステムなどがあります。
コミュニケーション・コラボレーションツールとしては、LINEを活用した防災チャットボットや、SNSと連携した情報共有システム、クラウド型の被害情報収集・共有プラットフォームなどがあります。これらのツールは、被災者と支援者間の情報共有を円滑にし、迅速な支援活動を可能にします。
ドローンや衛星技術を活用したソリューションとしては、被災地の状況を迅速に監視し、画像データを収集するシステムや、広範囲の被害状況を把握するために衛星からの監視を行うシステムなどがあります。これらの技術は、地上からのアクセスが困難な場所の状況把握や、被害全体の状況把握に役立ちます。
デジタルツイン技術を活用したソリューションとしては、都市全体の3Dモデルを構築し、地震や洪水などの災害シミュレーションを行うことで、都市計画や防災計画の策定に役立てる事例があります。
5.3 主要な地域
世界の災害DX市場において、特に注目されている地域としては、北米、アジア太平洋、ヨーロッパが挙げられます。
北米は、高度な技術インフラと多くの主要なテクノロジー企業が存在することから、市場をリードする地域の一つです。米国では、ハリケーンなどの自然災害が頻繁に発生するため、災害予測や緊急対応システムの需要が高く、政府も積極的に防災DXを推進しています。
アジア太平洋地域は、地震、台風、津波、洪水など、多様な自然災害のリスクが高い地域であり、近年急速な経済成長に伴い、防災対策への投資が拡大しています。特に、日本、中国、インド、オーストラリア、ニュージーランドなどは、災害DXの導入と技術開発を積極的に進めており、高い成長率を示すと予測されています。日本は、災害対策と管理システムにおいて世界的なベンチマークとされており、2022年には防災対策に1.1兆円以上の予算を割り当てています。
ヨーロッパでは、欧州委員会が複数災害に対する備えと予防措置を推進しており、人道支援のための資金を毎年7,800万ユーロ以上割り当てています。
これらの地域では、政府の強力な支援、技術インフラの整備、そして頻繁に発生する自然災害への対策ニーズが、災害DX市場の成長を牽引しています。
6. 世界の災害DX市場における最新のトレンドや今後の展望
6.1 最新のトレンド
世界の災害DX市場における最新のトレンドとしては、以下の点が挙げられます。
AIと機械学習の活用がさらに進み、より高度な予測分析と早期警戒システムが開発されています。AIは、過去の災害データやリアルタイムの気象情報、SNSの投稿などを分析し、災害の発生可能性や被害規模をより正確に予測することが期待されています。
IoT技術の導入が拡大し、重要なインフラや環境条件のリアルタイム監視が強化されています 31。これにより、災害の兆候を早期に捉え、迅速な対応を可能にすることが期待されます。
ビッグデータ分析の活用が進み、リスク評価の精度向上や、災害発生時の資源配分最適化に役立てられています。多様なデータソースを統合し分析することで、より包括的な災害リスク管理が可能になります。
ソーシャルメディアやクラウドソーシングを活用したリアルタイムの情報収集と市民参加が促進されています。被災地の住民からの情報やSNSの投稿は、災害状況の把握や支援ニーズの特定に重要な役割を果たします。
デジタルツイン技術の開発と導入が進み、災害シミュレーションや防災計画の策定に活用されています 12。仮想空間での災害シミュレーションは、現実世界での対策の効果を事前に評価し、改善に役立てることができます。
6.2 今後の展望
今後の災害DX市場は、以下の方向へ発展していくと予想されます。
AIと機械学習の進化により、災害予測の精度がさらに向上し、より複雑な複合災害や広域災害のリスク評価が可能になると考えられます。
IoT技術は、AIやビッグデータと連携することで、より包括的でインテリジェントな災害管理ソリューションを実現すると期待されます。
市民や第一応答者にとって、より使いやすくアクセスしやすい災害DXプラットフォームの開発が進むでしょう 2。これにより、より多くの人々が災害情報を活用し、適切な行動を取ることが可能になります。
異なる災害管理システムや関係者間でのデータ共有と相互運用性の向上が、より重視されるようになるでしょう 1。標準化されたデータ形式やオープンAPIの活用が促進されると考えられます。
7. 特に注目されている国や地域、または独自の取り組みを行っている事例
災害DXにおいて、特に注目されている国や地域、または独自の取り組みを行っている事例がいくつかあります。
日本は、自然災害が多発する国であり、政府主導で防災DXを積極的に推進しています 10。2024年の能登半島地震では、「防災DX官民共創協議会」が中心となり、デジタル技術を活用した被災者支援活動が迅速に展開されました。Suicaを活用した避難者情報把握ソリューションの開発や、避難所情報の一元管理システムの構築など、具体的な取り組みが進められています。仙台市では、VR技術を活用した災害体験プログラム「せんだい災害VR」を開発し、住民の防災意識向上に貢献しています。
シンガポールは、国家全体のデジタルツインを構築し、都市計画や災害リスク評価に活用する世界初の取り組みを行っています。これにより、災害発生時の影響をシミュレーションし、より効果的な防災対策を策定することが可能になっています。
オーストラリアでは、AIを活用した山火事予測・管理システムが開発されており、広大な国土における山火事の早期発見と被害軽減に役立っています。
米国では、ハリケーンの追跡と被害予測に高度な技術が活用されており、早期警戒システムの強化が進められています。
これらの事例は、各国がそれぞれの地域の特性や課題に合わせて、デジタル技術を駆使した独自の災害DXに取り組んでいることを示しています。
8. 結論
本レポートでは、グローバル災害DX市場の現状、成長性、主要プレイヤー、成長要因、そして今後のトレンドについて分析しました。自然災害の頻度と深刻度が増加する現代において、災害DXは、より安全で強靭な社会を構築するための不可欠な要素となっています。
市場規模は、調査機関や対象範囲によってばらつきがあるものの、全体として高い成長 potential を示しており、気候変動、技術革新、政府の取り組みがこの成長を牽引しています。主要な企業は、AI、IoT、ビッグデータなどの先端技術を活用し、災害の予測、監視、対応、復旧のあらゆる段階を支援する革新的なソリューションを提供しています。
今後の展望としては、AIの更なる進化、IoTとの統合、ユーザーフレンドリーなプラットフォームの開発、そしてデータ共有と相互運用性の向上が期待されます。特に、日本、シンガポール、オーストラリア、米国などの国々では、独自の取り組みが進められており、その事例は他の国々にとっても貴重な学びとなるでしょう。
災害DXは、単に災害による被害を軽減するだけでなく、持続可能な社会の実現にも貢献する可能性を秘めています。デジタル技術の進化を最大限に活用し、官民連携を強化することで、私たちはより安全で安心な未来を築くことができるでしょう。