業界課題とDXの必要性
製造業では近ごろ、現場の人手不足や熟練技術者の高齢化が進んでおり、対応が急がれています。
加えて、他業界に比べてDX(デジタル化)の導入がやや遅れていることも課題となっています。
日本の製造業は約180兆円の生産高を誇りますが、そのうちおよそ120兆円が部品調達にかかるコストだとされています。
この部分の効率化が進めば、業界全体の生産性に大きく寄与する可能性があります。
こうした背景をふまえ、生産現場のデータ活用や調達プロセスの見直しといったDXの取り組みが、重要なテーマとして注目されています。
注目スタートアップと取り組み
部品調達の領域では、キャディ(CADDi)という企業が存在感を高めています。
発注側と全国の加工会社をつなぎ、図面を自動で解析して見積もりを行う仕組みを提供しています。
さらに、AIを搭載したクラウドサービス「CADDi DRAWER」も展開しており、図面データの検索などを通じて業務効率化を支援しています。
現在は国内外に12拠点を持ち、グローバルなサプライチェーンにも対応しています。
2023年7月には、大手機械メーカーのスギノマシンがこのクラウドサービスの導入を発表し、調達の適正化や図面活用の高度化が進んでいます。
また、大阪を拠点とするフツパーは、エッジAIによる検品自動化に取り組んでいます。
創業は2020年ですが、すでに累計で5.4億円の資金を調達しており、中小工場にも導入しやすい低コストなソリューションとして注目されています。
さらに、LiLz(リルズ)はIoTカメラと機械学習を活用し、工場の目視点検を遠隔で行う仕組みを提供しています。
現場のアナログな業務を少しずつデジタル化していく流れが広がってきています。
資金調達・協業動向
製造業のDXに取り組むスタートアップには、近年多くの投資が集まっています。
たとえばキャディは、シリーズCまでに累計で約1億6,390万ドル(日本円で180億円以上)を調達しています。
フツパーのように数億円規模の資金を獲得する企業も増えており、投資家の関心の高さがうかがえます。
大手メーカーとの協業も進んでおり、キャディとスギノマシンの連携のほか、大手自動車部品メーカーがスタートアップの予知保全AIを導入する事例も見られます。
こうしたスタートアップの中には、製造業出身の創業メンバーが多く、現場に対する理解を活かしてPoC(実証実験)や共同開発を進めているケースも増えています。
ビジネスインパクト
製造業のDXによって期待される効果は、生産性やコストの面にとどまりません。
サプライチェーンの強化や、属人的な技能の継承といった面でも大きな影響があります。
たとえばキャディのプラットフォームを導入することで、調達にかかる工数やコストを削減できるだけでなく、複数のサプライヤーとつながることでリスク分散も可能になります。
また、Smart Craftのような製造DX基盤を導入すれば、帳票の電子化やリアルタイムでの進捗把握ができるようになります。
これにより、中小規模の工場でもデータに基づく改善活動が進めやすくなります。
実際に、ある部品工場では不良率が改善し、納期短縮につながったという報告もあります。
人手不足が深刻な中、こうしたDXツールが現場の業務を支え、技術の継承もデータを通じて行えるようになることで、事業の持続性を高める効果が期待されています。
最新トレンド・支援策
2023年以降は、生成AIやデジタルツインといった技術にも注目が集まっています。
たとえば工場内の工程をバーチャルに再現し、ボトルネックを分析するようなデジタルツインの活用は、Datumix社が物流分野で進めてきた取り組みとして知られています。
こうした動きは製造領域にも広がりつつあります。
国もまた、中小企業のDXを後押しするために、補助金や税制優遇といった支援策を用意しています。
経済産業省は、スタートアップとの協業を促進する「オープンイノベーション大賞」や、製造業DXの優れた取り組みを認定する「DX認定制度」などを展開しています。
こうした技術の進化と公的な支援が相まって、製造業のDXは今後さらに加速していくことが期待されています。